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ぼくの欲しいもの

 目覚めると、すぐそばに大好きなひとの顔がある。

「ぁ……」

 いまだにそんな日常に慣れなくて、毎朝、慌てふためいてしまう。

 久しぶりに学生時代の夢を見ていたからだと思う。

 地方デパートの創業家の二男として生まれてきた野坂湊斗(のさか みなと)。

 大学卒業後は、家業を手伝うつもりでいたのに……。

 なぜだか今、こうして都内の議員宿舎で、国会議員、大崎 政孝(おおさき まさたか)の腕に抱かれて眠っている。

 父が社長をつとめるデパートを、外資の脅威から守るために差し出された人身御供。

 心を殺して身を呈す。そんな日々が待ち受けているはずだったのに……。

「ん、あぁ……湊斗。おはよう。――もう目が覚めたのか」

 昨日も遅かったのに早いな、と優しい声音で囁かれ、ただそれだけの刺激で、ぞわりと身体が震えた。甘くて熱いその震えは、あっという間に湊斗を包みこんでしまう。

 気づけば大崎にくちづけられ、蕩けるような快楽を与えられていた。

「んっ……ぅ、だ、めです。きょうは七時半から赤坂の――で勉強会が……っ」

「大丈夫だ。時間に間に合うよう、善処する」

 真面目くさった顔でそういうと、大崎は湊斗の膝をぐっと折るようにして猛ったソレを湊斗の窄まりに宛がった。

「ちょ、ちょっと待ってください。だめ、ほんとに……ぁっ……!」

 昨晩、散々貫かれたそこは、湊斗の戸惑いとは裏腹に、ぬらりと大崎の昂ぶりを呑み込んでしまう。

 国会一のイケメン議員として女性たちを中心に圧倒的な人気を誇る大崎。

 その目力のつよい切れ長の瞳で見つめられると、身体の奥が熱く火照って、なにも反論することができなくなってしまうのだ。

「湊斗」

 甘やかな声にその身を震わせながら、湊斗は抗う腕から力を抜き、大崎の背に抱き縋るようにして身を任せてしまった。

 

 

「野坂。――これ、注文できるか?」

 昼下がりの議員事務室。遅い昼食を摂り終え、お茶を飲んでいると、大崎から声をかけられた。

「えーと……なんですか?」

 差し出されたスマホを覗き込むと、国産タオルの名産地として知られる、とある地方産のフェイスタオルが映し出されていた。かわいらしいゆるキャラが刺しゅうされた、その地方でも品質の高さで有名なメーカーのものだ。

「ええ。ここのメーカーのものなら、確か、取り扱いがあると思います」

 実家でつかっているタオルも、ここのメーカーのものだ。おそらく自社で扱っているから、大量に購入しているのだろう。

「じゃあ、同じものを238個、発注してくれ」

「えっ……どうするんですか、そんなにたくさん」

 驚いてむせてしまいそうになった湊斗の隣で、第一秘書の磐田が呆れたような声をあげる。

「また今年もされるんですね」

「いいだろう、事務所の金を遣っているわけじゃないんだ」

 どうやら私費で、全額支払うつもりのようだ。

「できればデパートの包装紙ではなく、クリスマスらしいラッピングにして欲しいんだ。お前のところの包装紙で包むと、受け取る側が恐縮してしまう可能性があるからな」

 湊斗の実家は、地元では老舗といわれるデパートだ。

『お歳暮やお中元を贈るなら、ここの包装紙でくるまなくてはダメ』という風習が、その土地では昔から根付いている。

「えっと……これはいったいどなたへお贈りするのですか?」

 不思議に思い訊ねた湊斗に、大崎ではなく磐田が答えた。神経質そうな細面が、呆れたように脱力している。

「闘病生活をされているお子さんたちへの寄贈ですよ。毎年、クリスマスになると必ずされるんです」

「寄贈?! それって、選挙違反になるのではないですか……っ」

 将来有望な若手議員として、クリーンなイメージのある大崎。まさか公職選挙法に抵触するような行為をしているのだろうか。

「選挙違反になるのは、『選挙区内の住人』に対する寄付、寄贈です。この方のは道楽だから、法には触れないんですよ」

 溜め息交じりにいうと、磐田は眉間に普段以上に深いしわを寄せ、こう付け加えた。

「十二月二十四日は臨時国会の召集日です。かならず朝イチの新幹線で戻ってきていただかなくては困りますからね」

「わかっているよ。仕事をおろそかにするようなことは絶対にしない。――野坂、その日は地元に戻るぞ。品物は前日までに事務所入れで頼む」

「ぇ、あ、はい……っ」

 いつものこととはいえ、ほんとうに切り替えの上手なひとだと思う。

 ベッドのなか、甘やかな声で『湊斗』と囁いていたのとはまったくちがう、凜とした声で名字呼びされ、湊斗も頑張って『秘書』の顔をつくった。

 

 

 二十三日の天皇誕生日

 真っ白なつけひげをたくわえサンタクロースに扮した大崎と、トナカイの赤鼻をくっつけ、角を生やした彼の幼なじみで地方事務所の事務局長をつとめる早瀬の姿を前に、湊斗は思わず吹き出してしまいそうになった。

「あ、あの、その格好は……」

「その格好は、じゃありません。あなたもさっさと着替えなさい」

 ぴしゃりと早瀬にいわれ、湊斗も慌ててコスチュームに着替える。

 茶色のつなぎに、トナカイの角や赤鼻。なんだかすこし照れくさいけれど、大崎や、普段こういった仮装を絶対にしそうもない、ツンとした印象の早瀬までしているのだから、自分だけ拒むわけにはいかない。

「よし、行くぞ」

 プレゼントの詰まった白い袋を提げ、大崎の掛け声とともに部屋の外に出る。

 すると、どこからともなく、子供たちの泣き声や笑い声が聞こえてきた。

 県境にある、こども病院。長期療養の必要なこどもたちのための入院施設だ。

 大崎はこの病院に入院している子供たちのために、毎年、クリスマスプレゼントを寄贈しているのだという。

 できることなら職員の手で渡してほしいと申し出る大崎に、この病院で医師をしている彼の幼なじみは、『お前自身が直接手渡ししないのなら、いっさい寄贈は受け付けない』と主張するのだそうだ。

「だから毎年、ここまで来るんですか?」

 そう尋ねた湊斗に、早瀬は頷いて見せる。

 きれいな顔立ちと赤鼻があまりにも不釣り合いで、目を合わせるのが申し訳ない気分になってしまいそうだ。

 大切な選挙区を預かる事務局長の彼は、スタッフのなかでも一番、お金や大崎のスケジュール組みに関して厳しいことで有名だ。

 いくら私費とはいえ、彼の散財を咎めず、このために地元回りに割く時間を削っているにも関わらず、彼はすこしも嫌な顔をしていない。そのことが湊斗には、とても不思議なことに思えた。

 

 サンタクロースになりきった大崎は、子供たちひとりひとりと会話を交わし、プレゼントを手渡してゆく。

(ちいさな子供たちにプレゼントするなら、タオルなんかよりお菓子や文房具、おもちゃのほうがいいのに……)

 湊斗のそんな考えは、病室を回るうちに浅慮であることがわかった。

 病院で暮らす子供たちのなかには、起き上がることのできない子も、食事制限のある子もたくさんいる。

 タオルなら枕カバー代わりにつかったり、口元を拭ったりと、誰もがつかうことができる。

 どうやら毎年、タオルをプレゼントしているようだ。なかには今までに彼に貰ったタオルを、たいせつにつかっている子もいた。

「ありがとうございます」

 うれしそうに微笑み受け取ってくれる親御さんの姿に、湊斗はギュッと胸がくるしくなった。

 なかにはサンタさんに、お礼の手紙を書いている子どももいる。

 モノを貰うことより、サンタクロースが病室をまわってくれる、というそのことが、彼らにとって楽しみになっているようだ。

 ベッドの上で一日の大半を過ごす彼らに、すこしでも肌触りのいいタオルを贈りたい。

 大崎はそんなふうに、思っているようだ。

 

 

 すべてのプレゼントを配り終えたころ、大崎の幼なじみだという医師、木下がようすを見に来た。

「ちょうど、いまから昼休みなんだ。墓、寄ってくだろ」

 そう声をかけられ、大崎は白ひげ姿のまま「ああ」と頷いた。

 

 病院から十分ほど離れた場所にある墓地。そこで、彼らは幼くして亡くなったという彼らの友人の墓に手を合わせた。

 あの病院で療養し、中学二年生のとき、亡くなったのだという。

 小学生の頃からずっとおなじ塾に通っていた、たいせつな仲間で、彼らは三人で、いつもその友人のことを見舞っていたのだという。

「毎年、病院でクリスマスプレゼント貰えるのがうれしいって、いってたもんな」

 大したものを貰えるわけじゃないけれど、『今年も無事に生きたぞ』って証みたいで嬉しいんだって、わらっていたのだという。

 大崎はたいせつな友人が『うれしい』と感じたことを、ほかのこどもたちにも与えたくて、しているのだと思う。

 どうやらあの病院の経営は、かなり苦しいようだ。数年前から、クリスマス会をしたり、プレゼントを渡す余裕がないのだという。

「そうだ。図書目録のことだがな……」

 クリスマスプレゼントだけでなく、定期的にさまざまなかたちで支援をしているようだ。

「そんなものはいいから、医療保険制度の改悪、あれをなんとかしろ」

「できるかぎりのことをしたいが、俺一人で、すぐにどうこうできるものでもない」

「それでも全力で取り組むのがお前の仕事だろ」

「――善処する」

 悪友からの口撃に真顔で答える大崎に、湊斗は朝の営みで、まったくおなじ台詞をいわれたときのことを思い出し、かぁっと頬を赤らめてしまった。

「それにしても、また可愛らしい秘書さんだな。お前ンとこは秘書を顔で選んでいるのか」

 木下にからかわれ、大崎は即答する。

「いや、こいつは単なる秘書じゃない。――伴侶だ」

「なっ……」

 慌てふためく湊斗を抱き寄せ、「手を出したら、ただではおかないから覚えておけ」と凄む。

「あぁ、そういうことか。まあ、それがいいかもな。そうでもなけりゃ……同性と『交際』なんかできないだろう」

 政治家というのは、タレント以上にシビアな人気稼業だ。スキャンダルひとつで、それまでの実績も、努力もすべて水の泡になってしまう。

「だけど、たとえばもしこの子と別れたからって、クビ切るようなこと、絶対にするなよ。私情で彼のキャリアを断つようなことをしてはダメだ」

 真摯な顔つきで、木下は大崎にそう告げた。

「安心しろ。別れるようなことは絶対にないから。――いや、もし仮に湊斗にほかに好きな相手ができたとしても、俺は湊斗を、『秘書』として愛しつづけるよ」

 大崎の手のひらが、湊斗の髪を撫でる。人気のない墓地とはいえ、こんな場所でそんなことをされるなんて、なんだか無性に照れくさかった。

「よし、てことは、早瀬は俺が貰っていいんだなっ」

 なれなれしく早瀬の肩を抱く木下の手を、早瀬があっさりと払いのける。

「残念ながら、早瀬はもうほかに相手がいるらしいぞ」

「なにっ……いつのまにっ」

「――なにいってんだか。既婚者のくせに」

 早瀬に冷ややかな眼差しを向けられ、木下はふてくされた顔で唇を尖らせる。

「さて、行くか。午後からはスケジュール、ぎっしり詰まっているんだろ」

「はい。二十二時過ぎまでノンストップです」

 手帳を開き、スケジュールを読み上げると、大崎は気のおける友人たちとの歓談から一転、議員の顔に戻った。

 

 年の瀬のこの時期、普段にも増して立ち寄るべき場所が増える。

 分刻みのスケジュール。まさに『師走』という言葉どおり、目の回るような忙しさだ。

『政治家なんて、どうせ税金無駄遣いして、ふんぞり返ってるだけでしょ』

 そんなふうにいう人たちに、見せてあげられたらいい。

 こんなにも一生懸命、世のなかをよくしようと尽力しているひとがいるんだってこと、見せてあげたい。

 相変わらず世間では、大崎のことを『顔がいいだけの世襲議員』といっているひとたちがいる。

 実際の仕事ぶりなんかなにも知らないくせに、と、湊斗はそんな言葉を耳にするたびに悔しい気持ちになった。

 そんな湊斗に、早瀬がやわらかな笑みを向ける。

「いいんです。世間がどう思おうが、地域のみなさんはきちんと理解してくださっていますし、党内での地盤も、すこしずつできあがってきていますから」

 党内の若手でつくる団体で、責任者をつとめることになったのだそうだ。

 すこしずつだけれど、世襲議員、ルックスだけの議員、というレッテルを払しょくしはじめている。

 そのことが湊斗にも、とてもうれしく感じられた。

 

 結局、すべての仕事から解放されたときには、すっかり日付がかわっていた。

「早瀬、お前も一緒にメシでもどうだ」

「なにいってるんですか。明日はどう頑張っても、時間をつくることが難しいでしょう。きょうくらい、はやく家に帰るべきです!」

 早瀬に一蹴され、大崎は嬉しそうに顔を綻ばせた。

「なんだかんだいって、お前も俺たちのことを認めてくれているんだな」

 ふたりが付き合いはじめたばかりのころ、早瀬からは全力で反対されていた。

 代々政治家を輩出している大崎家。次の代へと繋げてゆくため、しかるべき相手と結婚し、世継ぎをつくるよう、口を酸っぱくしていいつづけていたのだ。

「ありがとうございます」

 ぺこりと頭を下げた湊斗を一瞥すると、「臨時国会の初日に遅刻なんて絶対に許しませんからね」と言い残し、早瀬は去って行った。

 

 

 地元で仕事をするとき、大崎はいつも湊斗を自宅に泊まらせる。 

 両親の暮らす本邸と同じ敷地内にある、彼の家に連れてゆくのだ。

 大崎の父親が、彼に所帯を持たせるためにつくった別邸だが、彼はどんなに周囲がすすめても、見合いの席につこうとさえしない。

 そのことで将来的に、政治家として不利益をこうむることもあると思う。

 それでも彼は、自らの信念を貫き通そうとしてくれているのだ。

「実はですね、クリスマスプレゼントをご用意しました」

 ほんとうは、明日の夜に渡せたらよかった。けれども明日はおそらく、今日以上に忙しい一日になってしまう。

 自分のことなんかそっちのけで、世の中をよくすること、周りを幸せにすることばかり考えている大崎に、すこしでもクリスマスの気分を味わってもらいたい。

 緑色のラッピングにつつまれ、赤と金色のリボンの施されたそれは、歴代のイタリア大統領をはじめ、各国の政治家やエグゼクティブ層に愛用者の多い、イタリアの名門ネクタイブランドのネクタイだ。

 一本は大崎の爽やかさを強調する、空色(チェレステ)にホワイトの小紋柄。もう一本は彼の誠実さをあらわすかのような凛としたネイビーにホワイトのピンドット。

 彼のさらなる活躍を願い、選んだ品だ。

「ありがとう。湊斗」

 頬にくちづけられ、くすぐったさに目を細める。

 ひとり暮らしの部屋とは思えない広大なリビング。

 本来なら彼の隣には、やさしい妻や愛らしい子供がいたのだと、思い知らされる瞬間だ。

 くちづけが頬から唇に移動し、うっとりと目を閉じたそのとき、唐突に抱きあげられた。

「わっ……大崎先生っ……」

 あわててその背中に手を回すと、耳朶に唇を押し当てるようにして囁かれた。

「先生、じゃないだろう。政孝、だ。いつまで仕事を引きずるつもりだ?」

 つい先刻まで、議員と秘書だったのに。

「湊斗」

 下の名前で囁かれ、それだけでぞわりと身体が震えた。

「ベッドに行こうか」

 ちいさく頷くと、姫抱きにされたまま、寝室へと連れていかれる。

 部屋に入った途端、湊斗は思わず歓声をあげてしまった。

「わ、すごい……!」

 ベッドサイドには巨大なツリーが飾られていた。

 明かりを落とした部屋に、青と白の無数のひかりがきらめいている。

 色数を押さえたシックなツリーだ。白銀のリボンや青や銀色の球飾りが、うつくしく点滅するひかりに照らされ、輝きを放っている。

 可憐なツリーのすがたにうっとりしていると、ベッドに座らされ、手のひらのうえに小さな四角い箱を載せられた。

「えっと……これは……」

「開けてみろ」

 やわらかな声音でうながされ、リボンを解いて包みを開く。

 蓋を開けると、プラチナのペアリングが並んでいた。

 大崎は湊斗の手をとり、その左手の薬指に指輪をはめてくれる。

「ぁ、あの、これはっ……」

 さすがにペアリングは、まずいのではないだろうか。不安になる湊斗に、大崎はにっこりと微笑みかける。

「あえてシンプルなデザインのものにしたんだ。これならよっぽどのことがないかぎり、ペアリングだと騒ぎ立てられることはない」

 うやうやしく湊斗の手をとり、指輪越しに薬指にくちづける。

 大崎の左手にも、同じように指輪が光っている。

「大丈夫ですか? そんなものをしていたら……女性たちからの支持が、低下してしまわないでしょうか」

 思わずそう訊ねた湊斗に、大崎はおだやかな笑みを向ける。

「そんなことで低下するような支持率なら、その程度の政治家でしかなかったってことだ」

『若くてルックスのいい世襲議員』。

 そんな殻を、彼は、すこしずつ破ろうとしているのかもしれない。

「ですが、保守的な有権者のなかには、未婚のあなたが左手の薬指に指輪をすることを、快く思わないひともいるかもしれません」

「そういうやつには、好きに思わせておけばいい。――そんなもの簡単に覆せるくらい、しっかりと国政に邁進してみせるさ」

 自信たっぷりに囁き、湊斗の身体をそっと抱きしめる。

 大好きな大崎の香りにつつまれ、それだけで胸がいっぱいになってしまった。 

「あいしてるよ、湊斗」 

 

 あっというまに蕩かされる。

 えち。

「クリスマスプレゼント、なにが欲しい?」

「えっ、もう貰いましたよ」

「いや、これは俺自身へのクリスマスプレゼントなんだ。知っているか。恋人に指輪を送る男は、独占欲と嫉妬心が強いんだそうだ」

 マーキングみたいなものだよ、って囁かれる。

「なんでもいいんですか」

「ああ、なんでもいいよ」

「じゃあ、一日、いえ、半日でいいから、大崎先生の時間をいただきたいです。なんのスケジュールもいれない、空白の日を作ってください」

「どこか、いっしょに行きたいところでもあるのか」

「いえ。どこにも行きません。お部屋に監禁して――先生を休ませてあげたいです。美味しいコーヒーを淹れて、なんにもしない時間を過ごします。放っておくと、どこまでも仕事を詰め込んでしまうから」

 ゆっくり休ませてあげたいです。

「馬鹿だな。そんなことをしたら、よけいに疲れ果てる羽目になるぞ。お前も俺も、指一本動かせなくなるくらい、消耗しちまう」

 抱き寄せるようにして押し当てられる。

「だ、だめです。明日は七時からっ……」

「お前が悪いんだぞ。そんなに愛らしいことばかりいうから」

 結局抱かれてしまう。

 

 メリークリスマス。

 どうか、二十四時間、働いてばかりの彼に、せめて健やかな身体と、安らかな心を、これからもずっと与え続けてください。

 

 

 【完】